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chapter,9 (4)

last update Tanggal publikasi: 2026-09-14 13:29:59

「やっぱり、僕の思った通りだ」

 平井が外に出て行って、暫くして。取り残された豊の内耳に響いてきたのは、聞き覚えのある彼の声。

「賢季?」

 豊の声が聞こえたのか、賢季がこちらへ向かって歩いてくる。一歩、また一歩。

 ガラス窓の前で、彼の足は止まる。透明なガラスを隔てて、豊と賢季は見つめ合う。

 髭が、伸びているなと、豊は思う。

「ユタカ、何淋しそうな顔してんだよ」

 くぐもった声。

 土曜日の昼に目覚めて以来、一言も口にしていなかった賢季の、乾いた声。

「あ、あんたこそ……」

 唖然とする豊。にやりと笑う賢季。

 ……まさか、今までのって全部演技?

「ずっと黙ったままで!」

 賢季の悪戯っぽい笑みを見た瞬間。ぶちっと、何かが切れたような感覚と共に、豊は叫んでいた。

「あたしが! どんなにあんたのこと心配してたかわかってないだろ! 翠子に会わせるんじゃなかったって後悔しちゃっ

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  • SpringS ーハルタチー   chapter,11 (2)

    「んじゃ、一連の事件の流れから説明するか。十五年前、現財閥当主の妻、紗枝が精神的に追い詰められて心中未遂を起こした。その理由はたぶん、翠子の娘の父親が夕起久だったことを知ってしまったからだろう。とまぁ、ここまでは鈴代邸で暮らす人間なら誰もが知っている、そして隠匿している事実だ」 きょとんとした表情でいるのは豊だけで、あとの人間は口を真一文字にきつく結んでいる。小松がその滑稽な光景を見て頬を緩ませているのを、氏家が睨みつけている。「翠子は当時、スズシロ……泉観、美弦、そして自分の娘の夕凪、三人の赤子の世話をしていた。事件当日、翠子は泉観がぐずるからとぐっすり眠っている美弦を夕凪のベビーベッドで眠らせて、夕凪を連れて外へ出たんだろう。事件後に死んだのは夕凪だと周囲に信じ込ませているところからして、すりかえ自体、意図的なものかそうでないのかよくわからないけど、彼女が紗枝から娘を引き離すためにそう言い切った可能性は高いな」 そして夕凪……美弦と呼ばれるようになった翠子の娘は殺された本物の美弦の母親、美琴に養われるようになる。  翠子は、現財閥当主との不貞を近淡海家に糾弾され、離縁させられ天涯孤独の身となる。 しかし、唯一の味方がいた。「それが、小堂」 彼はたとえ不貞の子であろうが、大切な主人の後継ぎ候補であることに違いはないと、翠子と随時連絡を取りつづけ、夕凪の面倒を自ら買っていたのだ。  小堂と美琴の間で金銭のやりとりがされていたことから、美琴は美弦が夕凪であることを知っていたと考えられる。知っていた上で、美琴は美弦を育てたのだろう、彼女が次期財閥当主として権力を持つ可能性が少なからず存在していることを知っていたから、小堂から二人で暮らすには充分すぎるほどの金銭を甘受していたのだ。  もしかしたら、そのことすら翠子が手配したのかもしれない。「まぁ、ここまでが今回の事件の背景になる部分……冬将軍に該当するのかな」 翠子は今の事件には直接関わっていない。彼女はただ、知らず知らずのうちに冬将軍として殺人者を作りだしていただけ。紗枝の妄言が生み出した言葉にしては、リアリティがあるなと平井は改めて頷

  • SpringS ーハルタチー   chapter,11 (1)

     魔法の言葉を教えよう。小さな子供にそのような戯言を口ずさんだのは、北の奇術師。    * * * 「……ダ。ミェニャー、ザヴート」 私の名前は。「ユウナギ」 夕凪。夕陽の沈む静かな凪いだ海の情景。  美弦は流暢なロシア語で応答する。  何を言っているのか平井には理解できない。ただ、彼女が遠藤美弦ではなく、遠藤夕凪という戸籍を持つ少女であることは調査済みだ。彼女も抵抗しても無駄だと知っているのだろう、だから上城に挑むような態度で応戦しているのだろう。  周囲の人物の顔色を窺う。驚いた顔をしているのはずっと自分と妾の娘だと思っていた明起久とその妻玉貴、そして房江。それから円を殺したのは彼女なの? どうして? と信じられない表情で唇を噛み締めている豊。  現財閥当主の顔色は、まるで幽霊を見てしまったかのように青い。妻が半乱狂になって殺してしまった翠子の娘が、美弦という名を騙って、正妻の娘の泉観に濡れ衣を着せるような殺人を犯していたのだから当然の反応だろう。  泉観と賢季は無表情でことの成り行きを見守っている。もしかしたら気づいていたのかもしれない。美弦が夕凪であることに。「どうして? って、聞いた方がいいのかしら?」 少女にしては、若干低いハスキーボイス。事情聴取の時に見せたおどおどした態度とは裏腹に、すっきりしたような様子で、美弦、いや、夕凪は嘲笑を浮かべ、聞き返す。  上城は自分を睥睨する少女に、冷静に応える。「ええ。でも、いつかは必ずばれる嘘だと貴女もわかっていたみたいですね」 「むしろ、それが真実だと思いたかったのかもしれない」 ちぐはぐなやりとり。豊は美弦が何を言っているのか理解できずにいる。  ……美弦が夕凪で彼女が円を殺した?  金木犀の花言葉は真実。上城は確かに真実の扉を開いたのだろう、最初の一枚を。「戸籍を調べられるとは思っていなかった?」 「美弦自体、疑われていると思わなかったから。常におどおどして、人なんか殺せませんって態度を見せていたし」

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  • SpringS ーハルタチー   chapter,10 (3)

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  • SpringS ーハルタチー   chapter,10 (2)

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  • SpringS ーハルタチー   chapter,10 (1)

     賢者は愚者を嗾ける。眠り姫にキスをしろと。呪いを解き明かせと。    * * * 「陳腐なラブシーンをお見せしてしまいましたね」 豊が名残惜しそうに去ったのを見送って、賢季は平井の名をそっと呼ぶ。「あなたが何を考えているのか余計わからなくなりましたよ。鈴代財閥の人間だからと目を瞑っていられる状態を、あなたは自分で壊そうとしていますね」 呼ばれた平井も苦笑交じりに賢季を非難する。傷ついた腕を薄い包帯で巻きながら。「人を殺すよりは些細なことでしょう?」 くすりと微笑を浮かべる賢季を見て、まぁそうですけど、と平井は頷く。「それにしたって……素手でガラスを割る気力があるとは思いもしませんでしたよ」 「愛の力です」 いけしゃあしゃあと言い放つ賢季。「ぶっ」 思わず吹き出す平井。危うく応急処置した腕に力を入れるところだった。「その顔は信じていませんね」 「……何を信じろって言うんですか」 呆れきった平井を見ても、笑みを崩すことなく、賢季は続ける。「ところで。いつから気づいてました?」 平井はむっつりした表情で、無愛想に応える。賢季が、狸寝入りをしていたことを。「最初から」 はじめから気づいていたことに。「騙せませんでしたか」 わかりきったように、賢季が真面目な表情に戻る。無言で頷く平井。「少しばかりの猶予を与えたつもりなんですけどね」 「それはこっちの台詞だ」 賢季がなんのためにおとなしくなったのか、理解できないのが悔しいと、平井は両肩を落として呟く。「……翠子が不貞を働かせて近淡海家から離縁されたことは聞いたよ。その娘が紗枝によって殺されたらしい、ということもね」 淡々と事実を述べる平井に、賢季が確認するように口を挟む。「それが、僕の異母妹であるということも調査済みですよね?」 「は?」 

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